自然界の熱流体システムには,限られたエネルギと制約条件の中で目的機能を実現するための合理的な「仕組み」が潜んでいます.当研究室では,その「謎」をメカニズムとして解明し,支配因子とスケール則を抽出して設計知へ翻訳することで,次世代の熱流体制御・省エネルギ化につながる技術創出を目指します.

[Keywords]

自然界や生物における「システム」

製品が複数のコンポーネントから構成される「システム」として成立しているのと同様に,自然界や生物もまた,多数の要素が相互作用して目的機能を実現する「システム」と捉えることができます.

例えば人体は,膨大な数の細胞が階層的に組織化され,組織が器官となり,各器官が役割を分担しながら一体として機能するシステムです.また人体は,食料から得たエネルギを用いて仕事を行い,同時に熱を外部へ放出するという意味で,熱的な「系」としても理解できます(安静時におよそ 100 W 程度の発熱があることは,よく知られています).

人体の中でも循環器系は,全身に血液やリンパ液を循環させ,酸素や栄養素を運搬し,二酸化炭素や老廃物を回収する「流体システム」です.さらに,体温調節に関わる点では「伝熱システム」としての側面も持ちます.循環器系は,心臓,血液,血管網,リンパ管網など複数の要素(ないしはサブシステム)から構成されており,まさに「システム」として理解することができます.

自然界の「謎」に,次世代の設計知が眠っている

循環器系をはじめとする生体システムには,私たちが日常で目にする工学的な流れとは異なる,興味深い構造や機構が数多く見られます.例えば,心臓の「脈を打つ」ポンプ機能,肺の気管に見られる往復流,血管網の分岐・合流構造,毛細血管の網目構造などです.

自然界に視野を広げれば,魚の身体やひれの形がなぜ千差万別なのか,一部の魚や鳥がなぜ群れを成して移動するのか,温泉地で見られる間欠泉がなぜ周期的に発生するのか,といった「謎」が数多く存在します.自然界の構造や振る舞いが長い歴史の中で残っている以上,そこには,環境条件や制約のもとで目的機能を成立させるための合理的な仕組みが内在している可能性があります.

もし,自然界の熱流体現象や構造が,それぞれのスケールにおいて「より少ないエネルギで目的動作を実現する」方向に最適化されているのだとすれば,そのメカニズムを解明し,工学機器へ適切に翻訳することで,省エネルギ化に資する新しい熱流体制御・設計のヒントを得られると期待できます.

当研究室のアプローチ

当研究室では,自然界の知恵に学んだ次世代熱流体制御技術の創出を目指し,主に次の二つの方向から研究を推進しています.

◎ 生物の構造・動作・機構を模倣して工学応用する(バイオミメティクス)
   ⇒ 脈を打つ流れ(脈動流),サメ肌構造(リブレット)など

◎ 自然界の構造や機構を模倣して工学応用する(ネイチャーテクノロジー)
   ⇒ 間欠泉の機構,分岐構造など

いずれも,現象の「見た目」を模倣すること自体が目的ではなく,目的機能を成立させている支配因子とスケール則を明らかにし,設計に使える形へ翻訳することを重視します.詳細は研究テーマをご参照ください.

機械行動生態学(Mechanoethology)

生物の流れに関係した行動や動作が,「より少ないエネルギで目的動作を実現する」方向に合理化されているのであれば,その生態や行動を力学的特性から分析できる可能性があります.このように,力学の観点から生物の行動や生態を捉える研究領域は,2021年に「Mechanoethology」として定義されました.

当研究室では,バイオミメティクスの一つの展開として,魚類を対象に Mechanoethology 研究を推進しています.自然界の「謎」を機構として解き明かし,熱流体の設計知へ接続することを目指します.詳しくは研究テーマに記載していますのでご覧ください.


(References)

– 加速度30%向上 アミメハギの泳法が次世代ロボットのカギとなるか, Forbes Japan, 2025/6/3, available from https://forbesjapan.com/articles/detail/79501
– 福江高志, “自然界の知恵から学ぶ脈動流による電子機器冷却の新展開”, エレクトロニクス実装学会誌, 21-2 (2018), 114-121, available from https://www.jstage.jst.go.jp/article/jiep/21/2/21_114/_pdf/-char/ja
– 冷却だってバイオミメティクス、脈動で伝熱促す, 日経XTECH, 2018/6/25, available from https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00048/00002/