スマホやゲーム機に潜む「太陽」に挑む

 教員(福江)が,石塚先生・中川先生・畠山先生のご指導の下,初めて採択された論文が,電子機器筐体内に設置されたファンの性能評価に関するもので,それ以来,一貫して福江研究室の活動基盤となっている研究分野です.
 魅力品質を生み出す設計技術,自然界から学んだ新しい熱流体制御をものづくりに応用する,その対象の1つが,いまやわたしたちの生活になくてはならない,様々な電子機器です.AI (人工知能)技術や,IoT (Internet of Things : モノのインターネット)に基づく新しいものづくりを実現するためには,その根幹を担う電子機器の高度化は必要不可欠です.ところが,スマートフォンで動画を見たり,ノートパソコンでキーボードを打っているときに,熱く感じますよね.電子機器内部での計算処理が高速になることで,必ず熱が発生します.局部的には太陽にも迫る勢いになっており,そのままでは,容易な熱破壊,不安定動作,火傷などの様々な問題に繋がります.
 電子機器を高度化するために必須の熱制御:電子機器の中の「太陽」を制するための様々な研究と,ワールドワイドで展開する製品開発競争に打ち勝つための熱設計の標準化に向けた取り組みを進めています.

具体的な研究テーマ:

電子機器に実装される空冷ファンの送風性能評価

ゲーム機やパソコンなどの身近な電子機器においては,ファンを用いて送風することで電子機器内部からの放熱を行っています.しかしながら,従来のファンはあくまで「障害のない広い流路」での使用がメインでした.電子機器のように,ファンの周りに部品が直接実装されることで,ファン周囲の流れが変わり,性能低下が発生することがわかっており,その明確な改善策は提示されていません.そこで,高速度カメラを使った流れの可視化や,詳細な性能計測を駆使し,ファンをより効率的に使うための実装方法や,送風性能の予測法について研究します.

○ 福田・他5名,Thermal Science and Engineering, 30-1 (2022), 1-12, https://doi.org/10.11368/tse.30.1 ほか

強制対流/自然対流ヒートシンクの設計高度化に関する研究

電子機器に限らず,様々な熱交換システムにおける伝熱促進に,伝熱面積の拡大と前縁効果(フィンの縁で境界層の発達を一度リセットすることで伝熱促進を狙う効果)を狙って,様々なタイプのヒートシンクやフィンは広く使われます.一方でコストの最適化の観点から,ヒートシンクは単純な機構や加工工程で最大限の冷却性能を得ることが求められることから,システムレベルでの設計最適化が求められます.そこで,本研究では様々な電子機器において見られるヒートシンクにおいて,使用用途に応じて最適なヒートシンクの設計指針やデータベースの構築を目指しています.

IoT機器向け電子部品の熱性能の標準化に関する研究

IoT (Internet of Things ; モノのインターネット)の普及により,ありとあらゆるものに自動制御用や通信用の電子機器が実装されつつあります.これらの電子機器は,対象の製品を問わず実装できなければならないため,隙間に実装できるような従来以上の小型化が要求されます.これらに使われるミリメートル以下の寸法の部品が増え,動作保証のための温度評価技術が問題になっています.IoT用小型部品の温度評価について,より信頼性を増すための基礎研究を行い,基準の確立に繋げます.

○ Fukue and Hirasawa, Proc. ASME InterPACK2021, https://doi.org/10.1115/IPACK2021-69101
○ 平沢・他4名, エレクトロニクス実装学会誌, 24-2 (2021), https://doi.org/10.5104/jiep.24.193
○ 福江・他4名, エレクトロニクス実装学会誌, 21-2 (2018), https://doi.org/10.5104/jiep.21.130
○ 木村・他3名, 日本機械学会北陸信越支部2022年合同講演会講論 (2022).
○ Hatakeyama et al., Trans. JIEP, 9 (2016), https://doi.org/10.5104/jiepeng.9.E16-014-1 ほか

電子機器内部の複雑な圧力損失形態のモデル化に関する研究

電子機器に実装されたファンの冷却能力を測るために,前述のファン性能そのものの評価も重要ですが,もう1つ重要なことは,電子機器内部の通風抵抗,すなわち圧力損失がどれくらい発生するかを見積もることです.圧力損失の見積もりは,比較的単純な流路であれば,既存の経験式に基づき予測することができます.しかしながら昨今の複雑な電子機器においては,流れの構造も複雑になり,既存式だけでは正しく圧力損失を予測することができないケースが多々あります.そこで,電子機器特有の複雑な流路構造における圧力損失を決定する肝の抽出や,圧力損失のモデル化を目指した研究を進めています.

○ Kobayashi et al., Proc. IFHT2016 (2016).
○ Fukue et al., Proc. ISTP31 (2016) ほか

印刷プロセスにおける熱流体課題

Direct Thermal Printing (DTP) における
熱問題に関する研究

感熱印刷(Direct Thermal Printing ; DTP) は,レジのレシートからフルカラー写真プリントまで,ありとあらゆる対象に利用されている印刷プロセスです.最近ではポータブル写真プリンタにも応用されています.DTPではサーマルヘッドと呼ばれる加熱体により,インクリボンまたは印刷用紙に塗布された色素を部分的に加熱することで印刷します.このとき,印刷精度や印刷速度はサーマルヘッドからの伝熱により左右されるため,厳密な熱設計が必要です.そこで,DTPにおける伝熱を詳細に分析し,プリンタ印刷の品質向上に向けた研究を行っています.

FDM (Fused-Deposition Modeling) 法の3D印刷プロセスの研究

Fused-Deposition Modeling (FDM) は,溶融した樹脂を積層し立体造形を行う,3Dプリンタでも最もポピュラーな手法の1つです.安価に導入できるメリットもあり,デスクトップ上で試作したアイディアを簡単に立体造形して確認するラピッドプロトタイピング用に広く普及しています.一方で,印刷工程には樹脂の融解・凝固を含むことから,温度場の影響を受けやすいという欠点もあります.ユーザーのニーズに合った個別のものづくりを多種多様に行うような,オーダーメイド・マスプロダクションへのFDMの応用に向けて,FDMにおける温度場の影響を厳密に評価し,精度向上のための制御モデルの獲得を狙います.

○ Fukue, IS&T Advances in Printing Technology: Asia 2023.
○ Fukue et al., Proc. NIP34 (2018).
○ 山本・福江・Komarov, 化学工学会第50回秋季大会講論 (2018), DB217.
○ 福江, 日本伝熱学会北陸信越支部平成30年度総会・春季セミナー (2018).
○ 持田・他6名, オープンCAEシンポジウム2017.
○ Fukue et al., Proc. NIP32 (2016), https://doi.org/10.2352/ISSN.2169-4451.2017.32.112
○ Fukue et al., Proc. NIP29 (2013), https://doi.org/10.2352/ISSN.2169-4451.2013.29.1.art00034_1 ほか