自然界の「流れ」の不思議な知恵をヒントにカーボンニュートラルへ

 わたしたちを取り巻く自然には.長年の進化の結果として生み出された,不思議な「流れ」の構造がたくさんあります.例えば,なぜわたしたちの心臓は血液を脈打たせて全身に送り出すのでしょうか.肺の気管網や毛細血管はなぜ樹枝状の構造に進化を遂げたのでしょうか.一部の魚や渡り鳥が群を成して移動するのはなぜでしょうか.これら様々な自然界の流れの「不思議」が,もし,自然や生命を最も効率的に育む仕組みに育っているとしたら,ものづくりにおいても大きなヒントになると考えます.
 そこで,これら自然界の不思議な構造を紐解き,ものづくりへ応用する,バイオミメティクスやネイチャーテクノロジーの視点に立った研究を進めています.持続可能な社会の構築のキーになるような省エネルギ技術や熱流体制御技術を構築し,カーボンニュートラル (Carbon Neutrality) への熱流体視点からの貢献を目指します.未だ未解明の自然の不思議を解き明かすことにも繋がることを期待しています.

魚の泳ぎ方を流体力学的に紐解く(メカノエソロジー視点)研究はこちらで紹介しています

具体的な研究テーマ:

「脈を打つ流れ」に着想した新しい熱流体制御技術の構築

 自然界には,わたしたちの心臓から送られる血液や,海の波のように「脈を打つ流れ」が見られます.わたしたちが蛇口から水を出す場合にはあえて脈を打たせたりはしないですね.では,どうして自然界には脈を打つような流れ構造が見られるのでしょうか.そこには生命や自然の進化の過程で得られた,脈を打たせることによる,流れを起こすための,より効率的な仕組みがある,という風にも考えられます.
 そこで本研究室では,自然界に見られる「脈を打つ流れ」にヒントを得た,次世代の熱流体制御技術の構築を行っています.脈動流の応用により,持続可能な社会の構築に不可欠な高効率冷却技術の創成を目指します.特に,

① スーパーコンピュータや電気自動車・鉄道車両に実装されるインバータ用の水冷デバイスの流れを脈動化させることによる熱交換効率の革新の実現

② 空冷電子機器の空気の流れを脈動化させることによるシステムレベルでの冷却効率の向上

➂ 発熱量が変動しても自在な温度制御を可能にするシステムの開発

などを目標に,実験と数値解析の両方を使って研究を進めています.

※ JSPS 科研費(課題番号 19K14916, 19K04249, 16K18022)のご支援を頂いています.

○ 長島・福江, Thermal Science and Engineering, 31-4 (2023), 31-40.
○ Fukue and Shirakawa, Proc. IHTC-17 (2023), doi.org/10.1615/IHTC17.90-80
○ Hayakawa et al., Frontiers in Heat and Mass Transfer, 18-29 (2022), doi.org/10.5098/hmt.18.29
○ Hiratsuka et al., Frontiers in Heat and Mass Transfer, 15-16(2020), doi.org/10.5098/hmt.15.16
○ Fukue, Hirose and Yatsu, Trans. JIEP, 7-1 (2014), doi.org/10.5104/jiepeng.7.123 ほか

○ 日経XTECH「冷却だってバイオミメティクス,脈動で伝熱促す」https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00048/00002/

「間欠泉」に着想した衝突噴流冷却の高度化の研究

日本の温泉地にも見られる間欠泉のような流れも,土地における複雑な自然構造の成果として,効率的に流体を噴出している可能性があります.特に本研究では,間欠泉のような噴流を冷却面に衝突させることで,高い除熱効果を狙うための基礎研究を実施しています.実験と数値解析の両方で,間欠衝突噴流による時間平均の冷却効率の向上が確認できました.現在はより詳細な流れ構造の分析を行い,高い効率を実現するための間欠衝突噴流の制御指針の獲得を狙っています.

○ Fukue et al., Proc. PSFVIP-11 (2017).
○ Furusawa et al., Proc. ICEP2017, doi.org/10.23919/ICEP.2017.7939352
○ Fukue et al., Proc. IEEE CPMT Symp. 2016, doi.org/10.1109/ICSJ.2016.7801269 ほか

鮫肌構造にヒントを得た高機能冷却面の開発研究

高速に海を泳ぐサメの肌は,身体に沿って連続した細かい凹凸(リブレット)を持っています.このリブレット構造が,肌表面の摩擦による流体抵抗を低減することで,サメの高速遊泳に寄与しています.このことをヒントに,リブレット構造を改良しながら応用することで,圧力損失の増加を抑制しながら冷却能力を向上できる高機能伝熱面の開発を行っています.電気自動車用インバータなどの高熱流束を発するパワー半導体用の水冷デバイスへの応用を目指して研究を進めています.

○ Obata et al., Proc. ASME InterPACK/ICNMM2015, https://doi.org/10.1115/IPACK2015-48607 ほか

毛細血管などに見られる分岐管構造の流れと伝熱

自然界の流れ構造には,樹木の枝葉構造のような分岐管構造が多数見られます.例えば毛細血管,例えば肺の気管網,たとえば河川の構造など.このような分岐管が組み合わさったシステムの中で脈動流を発生させた場合に,流れ場や伝熱特性に与える影響を検証し,自然界の流れ構造を工学機器に応用するための基礎的な情報の取得を目指しています.