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製品と「システム」
例えば電車や電気自動車は,架線(パンタグラフ)やバッテリから受け取った電気エネルギを,モータを介して運動エネルギへ変換して走ります.しかし,受け取った電気をそのままモータで使えるわけではなく,モータで利用できる電力へ変換する電力変換器(インバータ)が必要です.すなわち「走行する」という所望の機能を得るために,架線/バッテリ ― インバータ ― モータ といった複数の要素(コンポーネント)が連携し,製品はシステムとして成立しています.
最終的な製品性能は,個々のコンポーネント性能だけでなく,それらが接続され,相互作用する「システム」として決まります.したがって,より良い製品を実現するためには,コンポーネントの性能とシステム全体の性能の両方を捉え,整合の取れた設計(デザイン)へ落とし込むことが重要になります.
実製品の最終的なデザインの目標と,熱流体システムデザインの役割
実製品が社会に受け入れられるためには,ステークホルダーが期待する機能・性能・デザインなどの要求に応えることが出発点になります.製品の目標設定を考える上では,顧客満足に影響する品質要素を整理する枠組みとして,狩野モデル(当たり前品質/性能品質/魅力品質)が有用です(狩野ほか,1984).

狩野モデルで言えば,感動や高付加価値に結びつく「魅力品質」は,ステークホルダーの主観的な満足を大きく左右します.一方で,魅力品質を成立させるためには,物理的な性能が十分であること(性能品質)に加え,「製品が製品として当たり前に動く」こと(当たり前品質)が前提になります.例えばリモコンの電源ボタンを押せばテレビがつく,というのは当たり前ですが,もしそれが成り立たない(押してもつかない,すぐ壊れる,など)製品があれば,ステークホルダーは強い不満を感じます.
以上を踏まえると,製品のデザインにおける熱流体システムデザインの目標は,次のように整理できます.
◎ 熱流体設計が担う範囲において,魅力品質・性能品質・当たり前品質を充足する
システムデザインを実現すること.
◎ そのために必要となる要素デザインにおいて,最高性能化と最適化を実現すること.
なぜ「実製品の熱流体課題」は難しくなるのか

ステークホルダーの満足は「機能」や「デザイン」といった要求に強く依存します.「高機能」「高いデザイン性」「使いやすさ」を追求すると,製品は小型化し,形状は複雑化し,実装されるコンポーネント数も増加します.その結果,製品内部の流れ場や温度場は複雑になり,複数の要素が競合する状況で,熱流体の3つの品質(当たり前品質・性能品質・魅力品質)を同時に満たす設計が必要になります.
さらにカーボンニュートラルに貢献するためには,より小さいエネルギで流体を動かし,熱を制御し,製品機能を成立させることが求められます.このためには,複雑化した製品内部の熱流体現象を適切に把握し,設計に応用できる形で再利用可能なデータベースや設計ノウハウ(設計知)として体系化することが重要になります.加えて,限られた寸法・制約条件の中で輸送性能や伝熱性能を最大化するための,新しい流体機械の設計指針や,伝熱促進体(ヒートシンク,フィン,リブ等)のイノベーションも不可欠です.
以上を踏まえた当研究室における研究推進

以上の背景から,当研究室では,実製品における熱流体システムデザインの高度化に向けて,次の研究を推進しています.
◎ 実製品で散見される複雑な流れ場における流体現象・伝熱現象の解明
◎ 設計へ応用できる熱流体現象の物理モデルの構築(設計に使える形への翻訳)
◎ 限定された寸法条件における最適な熱交換器・伝熱促進体に関する要素研究
そのなかでも,特に「電子機器の熱設計および冷却」に焦点を当てています.これについては個別ページにて紹介します.
(Reference)
– 狩野紀昭, 瀬楽信彦, 高橋文夫, 辻新一, “魅力的品質と当り前品質”, 品質, 14-2 (1984), pp. 39-48.
– 大富浩一, よくわかるデライト設計入門 (2017), 日刊工業新聞社.
– 福江高志, “二重の紙コップを科学する ~伝熱と1DCAE~”, 日本機械学会誌, 120-1188 (2017), pp.20-23, available from https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmemag/120/1188/120_20/_pdf