電子機器の高性能化と省エネルギ化が進むほど,冷却は“性能と信頼性を決める設計課題”になります.福江研究室では,電子機器冷却を熱流体システムデザインの重点領域として,システム視点と要素視点の両面から,設計に使える知へ翻訳し,最適化へつなげます.

これから想定される電子機器によるソーシャルイノベーション:スマートモビリティ&ホーム,モビリティの省エネ極限化,
Society 5.0 や AI の高度化実現に向けたデータセンタやスーパーコンピュータの革新(に,量子コンピュータも・・・)

実製品を対象とする研究の中でも,当研究室が多く扱うのが,電子機器の冷却・サーマルマネジメントに関する課題です.電力を使って機能を実現するシステムは,必ず電力消費の過程で熱を生じます.この熱を適切にマネジメントし,製品の動作保証温度を超えないように伝熱プロセスを設計することは,製品を成立させるうえで不可欠な設計プロセスです.一般に,これを電子機器の熱設計(Thermal Design of Electronic Equipment)と呼びます.

なぜ電子機器の熱設計が重要か

身近な例として,ノートパソコンやスマートフォンがあります.高負荷な作業や動画視聴の際に筐体が熱く感じられるのは,内部のロジック半導体などの電子部品が動作し,発熱しているためです.情報端末に限らず,私たちの身のまわりには電子機器があふれており,Society 5.0 の実現に向けて,データセンタ等の計算基盤,スマートモビリティやスマートホームを支えるセンサ,モバイル端末など,社会のあらゆる場所で情報デバイスの実装が進んでいきます.

一方で,高性能化が進むほど発熱は増大し,小型化・高密度実装が進むほど熱がこもりやすくなります.その結果,放熱が難しくなり,温度条件はより厳しくなります.冷却は運用コストや消費エネルギにも大きく関わるため,「高度な情報活用」と「電子機器における省エネルギ化」を両立させることは,Society 5.0 with Carbon Neutral の実現に向けた重要なトレードオフ課題です.

冷却の手段としては,ファン空冷,液冷,ヒートパイプやベーパーチャンバー等の相変化熱輸送デバイスの適用など,様々な選択肢があります.しかし,いずれの手段も,デバイスの製造・導入・運用の両面で追加のエネルギやコストを要します.したがって,巨大な情報機器から小型デバイスに至るまで,放熱対策がシステム成立のキーであることは疑いようがありません.

モビリティの電動化とパワー半導体の熱課題

モビリティ分野では,EV / xEV の開発・実用化・普及,航空機の電動化,鉄道分野における蓄電池電車の開発・実用化など,電動化による環境負荷低減が加速しています.その中核を担うのがパワー半導体です.パワー半導体は,バッテリや架線からの電力を,動力源として動作するモータに供給できる形へ電力変換します.しかし,電力変換では損失が避けられず,一部の電気エネルギは熱へ変換されます.この発熱は素子温度を上昇させ,性能低下や誤動作,熱応力による破壊の要因となります.

SiC や GaN などの新材料により変換効率を高める取り組みが進む一方で,大電圧・大電流を扱う用途では発熱問題は本質的であり,熱管理・熱設計の高度化は脱炭素社会の基盤技術として重要です.また,パワー半導体は再生可能エネルギーの電力変換にも用いられることから,その性能向上と熱マネジメントは,幅広い領域での省エネルギ化に直結します.

熱流体システムデザイン研究の視点からの福江研究室における取り組み

当研究室では,電子機器冷却を「熱流体システムデザイン」の代表的な実製品領域として位置づけ,システム視点と要素視点の両面から研究を推進しています.すなわち,製品全体の要求・制約(温度保証,信頼性,コスト,消費エネルギ等)を踏まえたうえで,複雑な流れ場・伝熱場の本質を捉え,設計に使える形へ翻訳し,最適化につなげます.

研究テーマ例

  • ファン空冷電子機器のシステム目線での熱設計手法の構築
  • 自然対流の冷却応用に関する研究
  • パワー半導体やデータセンタ用ロジック半導体の冷却を企図した液冷技術の研究
  • 半導体が実装されるプリント配線基板の伝熱性能評価に関する研究
  • 特殊環境下で動作する電子機器の熱設計に関する研究               (ほか)

具体的な研究課題の一部は研究テーマをご参照ください.また,産学・学学連携として,電子機器や電子部品の設計・製造・実装に携わる企業の皆さまからのご指導を頂きつつ,日本機械学会 RC 研究分科会(電子実装の信頼性と熱制御)等とも連携しながら研究を進めています.さらに,電子機器の信頼性を統一的な基準で評価できるプラットフォーム構築を目指し,電子情報技術産業協会(JEITA)サーマルマネジメント標準化グループでの活動も推進しています.


(References)

– 石塚勝, 図解入門 よくわかる電子機器の熱設計 (2009), 秀和システム.
– 福江高志, “近未来の電子機器の強制対流冷却設計に必要なビジョンを考える”, エレクトロニクス実装学会誌, 24-2 (2021), 178-187, available from https://www.jstage.jst.go.jp/article/jiep/24/2/24_178/_pdf 
– 福江高志, “ファン空冷電子機器の熱設計に関する最近の研究動向”, エレクトロニクス実装学会誌, 18-2 (2015), 86-93, available from https://www.jstage.jst.go.jp/article/jiep/18/2/18_86/_pdf
– 福江高志, 平沢浩一, 内田昌宏, 岡田祐司, 平岩哲也, “実装と放熱経路の変遷に対応したサーマルマネジメントの標準化動向”, エレクトロニクス実装学会誌, 21-2 (2018), 130-136, available from https://www.jstage.jst.go.jp/article/jiep/21/2/21_130/_pdf/-char/ja
– 平沢浩一, 福江高志, 内田昌宏, 有賀善紀, 梶田欣, “実装と放熱経路の変遷に対応したサーマルマネジメントの標準化動向 – 第二報- “, エレクトロニクス実装学会誌, 24-2 (2021), 193-202, available from https://www.jstage.jst.go.jp/article/jiep/24/2/24_193/_pdf/-char/ja