スマホやゲーム機に潜む「太陽」に挑む

当研究室PI(福江)が,師匠の石塚先生・中川先生・畠山先生のご指導の下,初めて採択された論文が電子機器筐体内に設置されたファンの性能評価に関するものであり,それ以来,本分野は一貫して福江研究室の活動基盤となっています.
自然界から学んだ新しい熱流体制御をものづくりに応用し,魅力ある品質を生み出す.その対象は,いまやAI技術やIoTの根幹を担う電子機器や電子情報機器にとどまりません.xEV,鉄道車両,さらに電動航空機といった次世代モビリティや,再生可能エネルギー源の有効活用においても,システムの中核となる「パワー半導体」の熱制御が極めて重要になっています.
スマートフォンやノートパソコンが熱を持つように,これら先進機器内部でも計算処理や電力変換の高速化・高出力化に伴い,局所的には太陽にも迫る猛烈な熱密度が発生します.この熱を放置すれば,熱破壊や不安定動作といった致命的な問題に直結します.
また,開発の最上流段階において電子機器の熱設計の可能性を拡大するために,製品の「機能」と「熱現象」の本質を数式モデルで捉え,全体最適を導き出す 1DCAE,およびモデルベースデザイン (MBD) に向けたモデリング手法のひとつとしての熱流体抵抗網法や熱回路網法の応用を重視しています.形を作ってからシミュレーションを行う従来の手法に加え,1DCAE・MBD を駆使することで,手戻りのない設計プロセスと最終製品の付加価値向上を実現します.なお,当研究室が提唱する「熱流体システムデザイン」と,電子機器の熱設計の関係については,個別ページにて説明しています.
具体的な研究テーマ:
パワー半導体・高集積ロジック半導体の冷却システムに向けた空冷ファンの極限性能評価

パワー半導体や高集積ロジック半導体の進化に伴い,データセンターやxEV(電動車)のインバータ等の発熱密度は増大の一途を辿っています.これらの冷却には水冷システムの導入も進んでいますが,液冷といえども熱を最終的に大気へ放出するラジエータ部には,依然として「ファンによる強制空冷」が不可欠です.つまり,空冷システム単体での利用に加え,水冷システムと組み合わせた最終的な熱拡散においてもファンは主役であり続け,その極限性能の追求が求められています.
しかし,従来のファン設計は「障害物のない広い流路」を前提としており,部品が高密度に実装された現代の電子機器内部では,カタログスペック通りの性能を発揮できません.ファン近傍の障害物が流れを阻害し,冷却効率を著しく低下させるためです.
そこで本研究では,高速度カメラを用いた流れの可視化や詳細なP-Q特性(圧力-流量特性)計測を駆使し,高密度実装状態におけるファンの挙動を解明.複雑な流動場を制御し,デバイスの熱暴走を防ぐための高効率な実装手法および送風性能予測法の確立を目指します.
○ 福田・他5名,Thermal Science and Engineering, 30-1 (2022), 1-12, https://doi.org/10.11368/tse.30.1 ほか
強制対流/自然対流ヒートシンクの設計高度化と最適化に関する研究

熱交換システムにおける「伝熱面積の拡大」と「前縁効果(フィンの縁で境界層の発達をリセットし伝熱を促進する効果)」を最大化するため,ヒートシンクの形状最適化は永遠の課題です.本研究では,強制対流と自然対流,それぞれの用途に応じた設計指針の構築を行っています.
1. 強制対流用ヒートシンク(高性能・低コスト化)
サーバーや産業機器など,強力な冷却が求められる領域では,冷却性能と同時に「製造コストの最適化」が重要です.複雑すぎる形状はコスト増を招くため,単純な加工工程で最大限の冷却性能(低熱抵抗)を得るためのシステムレベルでの形状最適化を探求しています.
2. 自然対流用ヒートシンク(ゼロエミッション・高信頼性)
再生可能エネルギー設備,LED照明,あるいは静音性が求められるAV機器など,電力を消費せず,ファン故障のリスクもない「自然空冷」の需要は高まっています.エネルギーを使わない究極の冷却手法として,わずかな温度差で生じる浮力を活かし,システム全体の信頼性を担保するための最適なヒートシンク設計指針やデータベースの構築を目指しています.
IoT機器向け電子部品の熱性能評価法および熱対策の標準化

IoT (Internet of Things) 社会の到来により,インフラ設備から家電まで,あらゆるモノに通信・制御デバイスが組み込まれています.これらは設置場所を選ばない「あまねく実装」が求められるため,ミリメートル単位の極小スペースへの実装が必須となります.
部品の微細化が進む中で問題となるのが,動作保証のための正確な「温度評価」です.微小部品は測定機器の接触だけで熱が奪われ,正当な評価が困難になるためです.私たちは,IoT社会のインフラを支える超小型部品の温度評価について,より信頼性の高い測定手法の基礎研究を行い,国際的な熱設計・評価基準(標準化)の確立に貢献します.
○ Kimura et al., Proc. ASME InterPACK2024, https://doi.org/10.1115/IPACK2024-139742
○ Fukue and Hirasawa, Proc. ASME InterPACK2021, https://doi.org/10.1115/IPACK2021-69101
○ 平沢・他4名, エレクトロニクス実装学会誌, 24-2 (2021), https://doi.org/10.5104/jiep.24.193
○ 福江・他4名, エレクトロニクス実装学会誌, 21-2 (2018), https://doi.org/10.5104/jiep.21.130
○ Hatakeyama et al., Trans. JIEP, 9 (2016), https://doi.org/10.5104/jiepeng.9.E16-014-1 ほか
電子機器内部の複雑な圧力損失形態のモデル化に関する研究

どれほど高性能なファンを選定しても,機器内部の「風の通りにくさ(通風抵抗)」を正確に把握できなければ,適切な熱設計は不可能です. 単純な流路であれば既存の経験式で圧力損失を予測できますが,昨今の電子機器は内部構造が極めて複雑であり,既存の経験式が通用しないケースが多発しています.これはモデルベースデザインやデジタルツインによる熱流体シミュレーションを行う上で最大の障壁となっています. そこで,電子機器特有の複雑な流路構造において,圧力損失を決定づける支配的要因を抽出.シミュレーション精度を飛躍的に高めるための,汎用的な圧力損失モデルの構築を進めています.
○ Kobayashi et al., Proc. IFHT2016 (2016).
○ Fukue et al., Proc. ISTP31 (2016) ほか
低温排熱回収に向けた熱電発電システムのモデルベースデザイン

工場やプラントからは,洗浄や加熱工程で使用された蒸気や温水など,大量の「低温排熱 (200℃以下)」が日々捨てられています.これらを熱電発電を用いて電力として回収することは,省エネ・脱炭素社会の切り札として期待されています.しかし,熱電発電は単にモジュールを貼り付けるだけでは性能を発揮せず,熱源(蒸気など)の凝縮による潜熱や,冷却水側の熱伝達をシステム全体で最適化する必要があります. そこで本研究では,個々の熱電モジュールの挙動から,多数のモジュールを統合したシステム全体の発電量までを,計算機上で高精度に予測・設計するモデルベースデザイン手法を構築しています.特に,蒸気の潜熱を活用した高効率な熱回収プロセスのモデル化に成功しており,実験とシミュレーションの両輪で,捨てられていた熱を価値ある電気に変えるシステムの社会実装を目指します.
〇 Nagai, Fukue and Uchida, Proc. J-K TFEC11 (2025), JK-TFEC11-1491.
〇 内田・清水・岡田・寺本・福江, 日本熱電学会誌, 21-3 (2025), 147-153, available from here ほか
アディティブ・マニュファクチャリング(DTP/FFF)における熱プロセス制御
印刷技術は,単なる文字の出力から,モノづくり(造形)へと進化しています.DTPおよび3Dプリンタ(FFF)はいずれも「熱」によって品質が決定されるプロセスであり,その熱制御技術を研究しています.
Direct Thermal Printing (DTP) の高速化・高画質化

レシートからポータブルフォトプリンタによるフルカラー写真まで,DTPは広く普及しています.サーマルヘッドからの瞬間的な加熱制御が印刷精度や速度を左右するため,その伝熱現象を詳細に分析し,さらなる高画質化と高速印刷の両立を目指します.
FFF (Fused Filament Fabrication) 式3Dプリンタの造形精度向上
溶融樹脂を積層するFFF法は,ラピッドプロトタイピングの枠を超え,個別のニーズに応えるオーダーメイド・マスプロダクションへと応用が広がっていきます.しかし,樹脂の融解・凝固プロセスは温度環境の影響を強く受け,造形強度や精度にバラつきを生じさせます.この「温度場の履歴」を厳密に評価・制御モデル化することで,産業用グレードに耐えうる造形精度の獲得を狙います.
○ 小林・福江, 流体工学シンポジウム2025.
○ Fukue, IS&T Advances in Printing Technology: Asia 2023.
○ Fukue et al., Proc. NIP34 (2018).
○ 山本・福江・Komarov, 化学工学会第50回秋季大会講論 (2018), DB217.
○ 福江, 日本伝熱学会北陸信越支部平成30年度総会・春季セミナー (2018).
○ 持田・他6名, オープンCAEシンポジウム2017.
○ Fukue et al., Proc. NIP32 (2016), https://doi.org/10.2352/ISSN.2169-4451.2017.32.112
○ Fukue et al., Proc. NIP29 (2013), https://doi.org/10.2352/ISSN.2169-4451.2013.29.1.art00034_1 ほか