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自然界や生物における「システム」

製品が複数のコンポーネントが集まったシステムとして成立している一方で,では自然界や,わたしたち生物はどうでしょうか?
たとえば,ひとはおよそ37兆個の細胞の集まりによって構成され,さらに同じ形や働きを持つ細胞が集まり,組織を形成し,組織がまとまった器官となり,それぞれが役割を果たすことでひととして活動する「システム」です(※ また,人体は安静時に100W程度の熱を発する「ヒータ」でもあり,食料からエネルギーを得て仕事をし,低質のエネルギーを外に捨てる「(熱的な)系」ともとれます).
そのなかのひとつの例として,循環器系は,全身に血液やリンパ液を循環させ,全身に酸素や栄養素を運搬し,二酸化炭素や老廃物を回収する「流体システム」です(かつ,体温の調節を図っている「伝熱システム」でもあります).この循環器系も,心臓,血液,血管網,リンパ管網など複数の要素から構成されます.したがって,循環器系も,複数の要素,ないしは個々の独立したシステムの組み合わせにより構築されるシステムと捉えることが出来ます.
ここで,循環器系の役割を十分に果たすための様々な機構や要素には,わたしたちが日常向き合っている流れではあまり見られない不思議な構造が散見されます.たとえば,心臓の「脈を打つ」ポンプ機能,肺の気管の往復流,血管網の特徴的な分岐・合流構造や毛細血管の網目構造などです.これらは,なぜこのような構造に成長したのでしょうか.人体に限らず,自然界には面白い流れに関する機能や構造が散見されます.例えば,魚の身体やひれの形はなぜ千差万別なのでしょうか.一部の魚や鳥は,なぜ群れを成して移動するのでしょうか.温泉地で見られる間欠泉はなぜ発生するのでしょうか.自然界の長年の歴史の中で,理由もなくそのような構造が残るとは考えづらいですよね.となると,より良く流れを起こし,より効率的に物質やエネルギを輸送するための「システムとしての」最適な仕組みがそこに眠っている可能性は考えられないでしょうか?
自然界の熱流体システムの謎を紐解き,次の熱流体制御へ
自然界における長年の経過の結果として現れている流れ構造には,前述の通り,わたしたちの日常生活でみられる流れと異なる形態が多く見られます.もし,これらの流れの構造や,流れを引き起こしているメカニズムが,それぞれの「スケール」において最適な流れになる:この場合「より少ないエネルギでシステムが目的の動作を実現できるように」ようデザインされているとしたら,このときの流れ現象を紐解き,それを同等の「スケール」を持つ工学機器に適切な形で応用することで,工学製品の省エネルギ化に貢献し,「自然界と共存する」流れシステムの構築に寄与できる可能性が期待できます.
そこで,当研究室では,
◎ 生物の構造,動作,機構を模倣して工学応用する(バイオミメティクス)
⇒ 脈を打つ流れ(脈動流),サメ肌構造(リブレット) など
ないしは
◎ 自然界の構造や機構を模倣して工学応用する(ネイチャーテクノロジー)
⇒ 間欠泉構造,分岐構造 など
の両面から,自然界の知恵に学んだ次世代熱流体制御技術の研究を行っています.
詳しくは研究テーマを参照ください.
【 機械行動生態学(Mechanoethology) 】
一方で,生物が見せる流れに関係した行動や動作が「より少ないエネルギでシステムが目的の動作を実現できるように」デザインされているのであれば,その生物の生態や行動を,力学的な特性(⇒ その生物がより「楽に生活できる」ようにデザインされている)から分析することができる可能性があります.このように,力学的な観点から生物の生態や行動を考える研究領域が,2021年に「Mechanoethology」と定義されました.当研究室では,バイオミメティクスのひとつの応用研究として,魚類を対象に Mechanoethology 研究を推進しています.詳しくは研究テーマに記載してありますのでご覧ください.

(研究室としてのバックボーンのReference)
– 加速度30%向上 アミメハギの泳法が次世代ロボットのカギとなるか, Forbes Japan, 2025/6/3, available from https://forbesjapan.com/articles/detail/79501
– 福江高志, “自然界の知恵から学ぶ脈動流による電子機器冷却の新展開”, エレクトロニクス実装学会誌, 21-2 (2018), 114-121, available from https://www.jstage.jst.go.jp/article/jiep/21/2/21_114/_pdf/-char/ja
– 冷却だってバイオミメティクス、脈動で伝熱促す, 日経XTECH, 2018/6/25, available from https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00048/00002/