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熱流体システムデザイン研究とCAE
熱流体設計や熱流体研究において,「見えない現象を見えるようにする」非常に有力なツールとして,Computer-Aided Engineering (CAE) が活躍しています.当研究室においても,数値流体シミュレーションコードを駆使して,様々な研究を進めています.
当研究室の研究とCAE
さて,当研究室では、特に「3D-CAE」と「1D-CAE」の両方を取り扱っています.
3D-CAE は,3 次元の形状や構造をそのままコンピュータの中で数値モデルとして再現したうえで,モデルを微細な格子で分割します(微細な格子の集まりで実際の形状を模倣します).そのうえで,それぞれの格子における質量,運動量,熱の出入りを計算することで,モデル全体の流れや温度場の分布までを計算で予測する,というものです.特に流体シミュレーションのことを,数値流体解析:CFD (Computational Fluid Dynamics) 解析と呼ぶことがあります.
CFDは,流れのはく離や渦構造などの詳細3次元構造の影響を可視化し分析できることから,ファンの性能解析や複雑な基板の熱伝導分布解析など,要素(コンポーネント)レベルの解析に極めて有力なツールになります.一方で,あくまで「微細な格子を積み上げて」モデルを再現することから,より信頼性の高いシミュレーションをしようと思うと,多量の細かい格子が必要になり,計算コストが増大します.場合によってはスーパーコンピュータの利用が必要になったりします.したがって,コンポーネントレベルの基礎現象解析には有力な一方,システム全体の最適設計を行うには,その計算コストは高すぎることが課題になります.
そこで,システムを構成するコンポーネントのそれぞれについて,その物理現象としての本質を損なわないようにシンプルに表現し,その繋ぎ合わせでシステム全体の動作や制御を予測したり設計したりする計算手法があります.このような手法を 1D-CAE と呼んでおり,当研究室においては1D-CAEのシステム設計への応用も,大きな研究課題のひとつとしています.1D-CAE では,3D-CAE のように,細かい格子の連続で物理現象を表現することを避け,対象のコンポーネントを代表的な節点で表現し,節点と節点の繋ぎ合わせをもって,コンポーネント間の物理量のやりとりをシミュレーションします.このようなモデルを集中定数系といいます.伝熱現象を集中定数系で表現した最も著名なシミュレーション手法が熱回路網法で,これは伝熱と電気回路のアナロジーを用い,伝熱現象を電気回路と透過に表現することで,回路計算と同等のシミュレーションで予測するものです.これに加え,冷媒の流れについても同じく集中定数系で表現し,伝熱系と流れを連成解析できるようにした手法が熱流体抵抗網法(Flow and Thermal Resistance Network Method)で,当研究室における1D-CAEは,熱流体抵抗網法または熱回路網法を軸に理論を構築しています.
数値化したシステムモデルを用いて,システムの性能計算を行い製品開発や設計に繋げる計算法を,特にモデルベースデザイン,ないしはモデルベース開発(Model-Based Design or Model-Based Development)と呼びます.当研究室では,要素分析のためのCFDと,システム全体分析のための1D-CAEに基づくモデルベースデザインの両方を用いて,全研究領域の研究を進めています.

両者の活用による先進設計の実現

上図はFDM (Fused-Deposition Modeling) を例にとった 3D-CAE と 1D-CAE モデルの関係です.ここでは,3D プリンタ全体の動作を,集中定数系で繋ぎ合わせて再現したモデルを「システムモデル」,この動作を操作し制御するモデルのことを「コントローラモデル」,システム内において「樹脂を溶かしてテーブルに流し込み印刷する」という物理現象を表現するモデルを「プラントモデル」と呼んでいます.
さて,システム全体のモデルベース開発において,システムモデルとプラントモデルを,それぞれ適切に再現することは信頼性の高い設計を実現する上で重要です.システム全体が正しく構成されていることは,最終製品における動作や制御を正しく再現することに繋がる一方で,プラントモデルにより表現されている物理現象に現実との差異が生じていれば,信頼性の欠如に繋がります.一方で,プラントモデルの信頼性を高めようとしてモデルの解像度(細かさ)を上げてしまうと,計算コストが高くなってしまいシステム全体の再現が不可能になります.
そこで,プラントモデルの信頼性を高めるために,3D-CAEや実験によるバックアップも大事になります.第三者的手法で取得した物理情報で的確にプラントモデルを構築して,それをもってシステムモデルに組み込む,3D-CAEや実験と1D-CAEの融合や連携も重要になります.システムモデルからのトップダウンによる必要なプラントモデルの構築,物理現象からのボトムアップによるシステムモデルへの適切なプラントモデルの組み込み,この両者の視点を融合させることで,より信頼性の高い熱流体システムデザインツールとして,モデルベースデザインを応用することが出来ます.
以上の考え方に基づき,当研究室においては「熱流体システムデザインへの適切なモデルベースデザイン手法の応用」について,様々な事例を対象に検証を進めると同時に,次の熱流体設計を担うシミュレーション手法についても研究を進めています.さらに,各研究事例で得られた基礎的な物理データを,1D-CAEに落とし込むための物理モデリングや,3次元の物理現象を単純な集中定数系に落とし込むためのモデリングの考え方(MOR:Model-Order Reduction)についても研究しています.

(研究室としてのバックボーンのReference)
– 福江高志, 石塚勝, 山﨑健太, 畠山友行, 中川慎二, 中山恒, “局部的な強制対流冷却を有する薄型筺体内流体解析への熱流体抵抗網法の適用”, Thermal Science and Engineering, 19-3 (2011), 81-93, available from https://www.jstage.jst.go.jp/article/tse/19/3/19_3_81/_pdf/-char/ja
– 福江高志, “ファン空冷電子機器の簡易高精度熱設計手法”, 日本機械学会熱工学部門ニュースレター, 第72号 (2014), available from https://www.jsme.or.jp/ted/NL72/TED-Plaza_Fukue.html
– 福江高志, “熱流体抵抗網から考える熱流体設計のプラントモデリングとモデルベース開発”, システム/制御/情報, 67-8 (2023), 331-336, available from https://www.jstage.jst.go.jp/article/isciesci/67/8/67_331/_pdf/-char/ja
– 福江高志, 寺尾博年, “価値の創出に向けMBDに期待したいこと – サーマル印刷の熱回路網法を例に -“, 日本画像学会誌, 64-2 (2025), 193-199, available from https://doi.org/10.11370/isj.64.193
– 福江高志, “オープンCAEと Heat Think PBL”, 設計工学, 53-3 (2018), 220-226.